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2020/09/29

発達障害の検査をすれば自己診断ができるという誤解



さて、久しぶりに今回は、
シリーズ物ではありません。

最近、クリニックに、
発達障害の検査をお願いします
という問い合わせが
増えています。

大手メディアで、
何か報道でも
されたのでしょうか。

実は、このお問い合わせ、
対応が、かなり手間がかかります。

そのご質問の真意を
はっきりさせる必要が
あるからです。

1:WAIS(通称:ウェイス)という
IQを測定する検査をご希望なのか?

2:自閉症スペクトラム障害(ASD)や
注意欠陥多動性障害(ADHD)の
スクリーニング検査をご希望なのか?

これだけなら、まだ、よいのですが、

3:1や、1と2の検査だけで、
発達障害の診断がつくものと、
誤解されていないか?

4:診断の確定には医師の診断が
必要であることを、理解されているか?

5:理解されているとすると、
つまり、初診の依頼と、同じことか?

このような確認を、
受付さんが電話で実行するのは、
けっこう、大変なのです。

・・・

世の中の誤解を解消するために、
以下、順番に整理してみますね。

1:WAIS(IQ測定検査)

まず、IQとは、日本人の場合、
同世代の日本人の平均を100として、
自分がどの程度の知的能力を持っているか、
それをある程度、客観的に示す指標です。

WAISとは、
その指標を算出するための心理検査です。

臨床心理士さんが、
2時間弱ぐらいの時間をかけて、
次々と質問を繰り出してきます。

それに、延々と回答していく、
クイズ大会のような検査ですね。

このWAISは、
発達障害の診断に、
どのような意義があるのでしょうか?

まず、発達障害の中身には、
ASD
ADHD
学習障害(LD)
知的障害、があります。

知的障害の定義が、
IQ70未満、となっているため、
WAISの結果は、
知的障害の診断には、確かに、
かなり、直結します。

また、LDの診断には、
全体の知的レベルに比べて、
特定の学習能力が突出して低い
という状況の確認が必要なため、
WAISの実施が、確かに、
望まれます。

でも、
ASD、ADHDの診断には、
必須では、ありません。
その診断基準に、
含まれては、いないのです。

※ASDやADHDの、
「診断」ではなく、
「サポート」に関する意義については、
後述。

つまり、WAISを実施しただけでは、
ASD、ADHD、LDの診断は、
つきません。

これ、精神科医も
理解していない場合があります。

もっと厳密に言うと、
知的障害の診断も、
WAISの結果をもとに、
臨床心理士が告げることは、
できません。

IQが低くても、実は、
うつ病や統合失調症の病状がキツくて、
一過性に、
低くでている可能性があります。

その場合、
知的障害と診断することは、
留保すべきです。

そのような判断は、
医師が行うしかありません。

つまり、
心理検査の結果だけで、
自動的に診断がつく、ということは、
あり得ないのです。

・・・

2:ASDやADHDのスクリーニング検査

なので、これらのスクリーニング検査も、
それだけで、診断はつきません。


詳しい事情は、こうです。

それらの検査は、
ASDなり、ADHDなりに特徴的な
特性」が、どの程度あるか、
ザックリ調べる検査になります。

そももそ、発達障害の診断は、
どの程度、
その特徴的な「特性」があるか、と、
どの程度、
その「特性」によって、
社会生活に「不適応」があるか、
によって、診断されます。

つまり、
「特性がある」+「不適応がある」で、
診断されるわけです。

スクリーニング検査は、
その「特性」について、
チェックすることはできますが、

それによる「不適応」の程度は、
医師が、診察で確認する他、
ないのです。

・・・

3:検査のみで診断がつくという誤解

それが、誤解である理由が、
いま、お伝えした事情によるのです。

・・・

4:医師が診察で行うこと

本人が自覚している「特性」が、
ほんとうに、発達障害による「特性」なのか、
ていねいに確認していきます。

強迫性障害や解離性障害など、
他の障害による「症状」の場合もありますから。

また、その「特性」が
「どの」発達障害に由来するものなのか。

ASDなのか、ADHDなのか?
LDなのか、知的障害なのか?・・・

同時に、その「特性」による
社会生活上の「不適応」が、どの程度なのか、
これも、ていねいに確認していきます。

そして、
その「特性」による「不適応」の「個数」が、
診断基準の「個数」を
超えているかどうかを、
チェックするわけです。

・・・

この「不適応」の評価は、
かなり、熟練を要します。

ADHDを例に、説明しましょう。

ADHDの「特性」を持ちつつも、
高校までは学業優秀のA君。
自己管理が必要となる大学入学後、
予定のすっぽかしや
課題の先延ばしが目立つが、
なんとか、進級はできている。
特に、スマホを使い倒して、
自己管理をパワーアップさせている。

A君の場合、
「特性」は十分ですが、
「不適応」がギリギリ、セーフで、
ADHD「予備軍」とでも
評価することになります。
※いわゆる、グレーゾーン。

別の例です。

不注意ミスは、確かに認めたが、
高校卒業までは、
さほど、困らなかったBさん。
でも、工場に就職した後、
現場でのミスが続き、
上司にすすめられ、受診。
不注意以外は、
ADHDの「特性」はマイルド。
でも、不注意による「不適応」は突出しており、
抗ADHD薬による治療が望ましい状態。
処方すると、ミスはかなり改善され、
継続勤務、できている。

Bさんの場合、
確かに、
「特性」による「不適応」の「個数」は、
診断基準に満たないが、
持っている「特性」の、
「不適応」の程度が、かなり重症。
よって、
臨床閾値未満ADHDと診断された。

臨床閾値未満(りんしょういきちみまん)ADHD
ADHDの診断基準に満たないが、
「不適応」の程度が
治療が必要なレベルのADHD、
という意味。

さらに、別の例です。

ADHDの「特性」を持ちつつも、
大学までは順調だったC君。
新卒で入社して半年後、うつ病を発症。
うつ病の治療を求めて、受診。
うつ病を発症した事情を確認すると、
会社が求める成果を達成するために、
不注意ミスを避けるためのダブルチェック、
遅刻を防止するため、かなり余裕を持って
面談時間に向かうなど、
心身のストレスがハンパなく、かかっていた。

C君の場合、
社会人以降、ADHDの「特性」に対する
自己対処の負担が、限界を超え、
うつ病という「不適応」を来した、という意味で、
うつ病に加えて、ADHDと診断された。
職場は、C君がADHDだとは、
わからなかったでしょう。
でも、C君の今後の治療を考えると、
ADHDに対する対策は、不可欠です。
これは、とても高度な
ADHDの診断になります。

・・・

5:発達障害の診断を求めるなら初診が必要

まとめると、
そういうことになるわけですね。

・・・

ちなみに、
ASDやADHDの「診断」には、
WAISは必須ではないが、

ASDやADHDの「サポート」には、
WAISの所見が役に立つ場合がある、
という点について、補足します。

WAISは、単に、
IQを算出するだけではなく、
具体的な知的能力について、
得意・不得意をあぶりだすことができます。

例えば、
ASDと診断された方が、
WAISを実施し、

単語の意味は十分理解しているが、
一般常識の理解に大きな偏りがある、
と判明した場合、

その方の、
人とのコミュニケーションの不具合には、
その偏りが関係している可能性があって、
その点の修正をサポートすることが
有意義だろう、となるわけです。

ただし、その、逆は、
違うよ、ということです。

WAISに所見があるからと言って、
それがASDの診断の根拠になる、
ということは、ない、
ということです。

・・・

発達障害の検査について
検討する時、

Do: 
WAISや、各種スクリーニング検査の、
発達障害の診断における位置づけについて、
基本的な理解を得た上で、
検討に入る。

Don’t: 
発達障害の検査を受けるだけで、
自分が発達障害かどうか、
判別できると誤解する。

それでは今週も 
マイペースで乗り切りましょう!