療養のための「食べる瞑想」②:実践編
あなたは食事を摂る時、スマホをいじったり、TVを見ながら食べますか?
燃料を注入する、というノリで、かき込むようにせわしなく食べますか?
カロリーや栄養素に気をつかっている方でも、そのような食べ方になっているかもしれません。
「食べる瞑想」は、食べ物と、それをゆっくり食べるという行為それ自体に、
十分な注意を向ける、そんな食事の仕方を提案しています。
マインドフルネス瞑想の基礎でもあります。
その結果、
食べ過ぎが減る
感情のコントロールがしやすくなる
物事に集中しやすくなる
食べ物を通じてのスピリチュアルな気づきを得る
などの効果が期待できます。
この記事では、この「食べる瞑想」の具体的な実践について、
うつ病、躁うつ病、パニック障害、摂食障害、統合失調症など、
さまざまな精神疾患の療養中の方を念頭に、まとめています。
さっそく、取り組んでみましょう。
基礎知識
とはいえ、まずは、基礎知識の確認です。
食べるという行為は、人のさまざまな感覚を刺激し、人のさまざまな機能に影響を与えます。
食べる瞑想では、その変化をつぶさに観察することになるため、
自分のどこに注目すればよいか、その枠組みを、知っておく必要があります。
一つは、「チャンネル」、という考え方に親しんでおくことです。
これは、プロセス指向心理学の用語です。
人が世界を体験する時、その情報を得るチャンネルを、6つに整理しています。
・視覚
・聴覚
・身体感覚
・身体運動
・他者との関係
・世界との関係
この6つ、ですね。
詳しくは、こちら↓
うつ病の治し方:苦手なあなたのための瞑想入門
もう一つは、「ヒトの4つの機能」という考え方です。
ヒトの持つ機能、ヒトに「できること」をたった4つに、整理してみることです。
その4つとは、
・動く
・感じる
・考える
・信じる
この4つ、です。
詳しくは、こちら↓
習慣を変えるには:行動を変えるだけではダメな理由
特に、
「動く」は、身体・性(対人関係)・お金に細分されます。
「感じる」は、感覚と感情に細分されます。
「考える」は、言葉とイメージに細分されます。
この辺り、詳しくは、こちら↓
習慣を変えるには:マンダラチャートを活用しよう
ちょっと、関連記事を読むのがメンドウですが、
食べる瞑想以外にも、役に立つので、是非、親しんで下さい。
この基礎知識を得ると、食べるという行為を行いながら、
自分が注目すべきポイントが明確になることで、食べる瞑想がやりやすくなります。
注意事項
精神疾患による症状をかかえつつ、初めて食べる瞑想を行う際の、基本的な注意点を記します。
⚪️慣れるまでは、1日10分以上は行わない。
瞑想は、しっかり集中すればするほど、最初のうちは、疲れます。
だから、無理に、一回の食事の全体を、食事の瞑想にする必要はありません。
最初は、一口を飲み込むだけ、ほんの1分間でも、大丈夫です。
⚪️食材の選択
最初のうちは、一回の瞑想で取り組む食材を、一種類の果物や野菜に限定すると、取り組みやすいでしょう。
形態や味に特徴があるものが多いので、それぞれのチャンネルで、注目しやすいからです。
マインドフルネス瞑想では、レーズン・エクササイズが有名ですが、
必ずしも、干しぶどうから始める必要はありません。
また、一口では食べられない大きさのものは、食べる直前に、
噛まずに口に入れられる大きさに処理しておくとよいでしょう。
あるいは、口に入れるとき、一回だけ、噛むという場合は、その一回で、一旦、咀嚼を止めるようにしましょう。
(クチャクチャ噛み始める前の段階で、観察ポイントがあるためです)
カレーライスを食べている時などは、その中の具材の、乱切りのニンジンだけを取り出す、というやり方で、問題ありません。
また、炊いた白米など、普段、よく口にしているものも、新鮮な気分で向き合ってみると、発見がいろいろあるものです。
最終的には、毎日、口にする、あらゆる食材で、チャレンジするとよいでしょう。
⚪️周囲への配慮
食事の瞑想を知らない方にとっては、食事中に、非常にゆっくり長時間、咀嚼していたり、ずっと閉眼していたりする様子は、
異様とも、不快とも、取られかねません。
同時に食事をする周囲の方へ説明しておくか、一人の時に取り組むか。
そうすると、トラブルにならず、よいでしょう。
では、早速、取り組んでみましょう。
具体例には、イチゴを用意しました。
食べる前に
食材を目の前に持ってきます。まだ、食べません。
⚪️食材を、6つのチャンネルにそって、観察していきます。
<視覚>
どんなカタチをしていますか? 何色ですか? 大きさは?
表面は、どんな質感ですか? (例:プツプツある種や、それが埋まっている凹みの微細な局面、小さな毛羽立ち)
どんな視覚的イメージが連想されますか?(例:真っ赤で小さなクリスマスツリー?)
<聴覚>
自ら音を発している食材は、珍しいかもしれません。
でも、トントンと叩いたり、キュッキュッとこすったりすると、楽器のように音を出します。それを観察します。
<身体感覚>
触覚はどうでしょう。まずは、手にとった、重さ。そして表面の手触り。(例:しっかりにぎると、つぶれてしまいそう)
嗅覚はどうでしょう。近づけて、臭ってみます。(例:採れたてなら、土のにおいがするかもしれません)
唾液が出てきて、口の中が湿ってくる感覚も、舌の触覚に含まれますね。
(味覚については、実際に一口、食べてから、観察します。)
お腹がすいてきて、お腹がグルグル鳴る、という感覚も、身体感覚に含まれます(深部固有感覚)。
<身体運動>
まだ、食材を観察しているだけなので、目立った体の動きは乏しいかもしれません。
実際に食べ始めると、もちろん、咀嚼、という顎や歯の動きが出てきます。
でも、この段階でも、自分の体をつかって、観察をすすめることができます。
(例:イチゴの緑の葉をつまんで、ゆっくり振ってみます。まるで、赤い大きなしずくのように感じられるかもしれません)
<他者との関係>
その食材を用意してくれた方は、どなたでしょうか? その方は、どんな思いで、用意してくれたのでしょうか?
自分で購入した場合なら、売ってくれた方は、どなたでしょうか? その方の思いは?
<世界との関係>
その食材は、どこで生産されたのでしょうか? どんな農家で、どんな思いで、育まれたのでしょうか?
その食材を育てるのに、必要だった、日光、雨、大気、土壌は、どんな役割を果たしたでしょうか?
また、出荷された後、どのように運搬され、市場に出され、小売り店が買い、保管し、パックし、商品棚に並んだでしょうか?
いま、目の前にある、一口の食材が、あなたの目の前に届くまで、気の遠くなるほど膨大な、自然と人・物の連鎖が、存在します。
その連鎖に、思いをはせましょう。
⚪️さらに食材を「4つの機能」にそって、観察します。
6つのチャンネルによる観察と重なる部分があります。
そこを省略すると、ポイントは、以下の3つ。
まず、感情。
その食材を前にして、どんな感情がわいてきていますか? ワクワクする、ドキドキする?
それとも、早くたべたくて、イライラしている?
(例:以前に食べておいしかった、やや高級なイチゴをふんぱつして買った。絶対、おいしいぞ…という幸せ感)
(例:自分の好物だからと、家族が買ってきてくれた。ありがとう…、という感謝の気持ち)
(例:お見舞いにこんな高価なイチゴを…私はイチゴ、あまり好きじゃない…申し訳ないという気持ち)
次は、お金。
その食材を購入するために、必要なお金は、どれぐらいだったか?
そのお金は、誰が、出してくれているのか? そのお金を手に入れるために、どれほどの苦労があったか?
最後は、「信じる」。
この食材が、いま、あなたの目の前に現れています。
この現実を生み出している力が、何だと、あなたは信じていますか?
自分の財力か? 自分の人徳か? 家族の愛や義理か?
日本が先進国だからか? 物流が優れているからか? 栽培技術が優れているからか?
仏教が教える「縁」か? キリスト教が教える「神の慈悲」か?
それらを超えた、大自然の恵か?
それとも、弱肉強食の生態系の一部になっているからに過ぎないのか?
それとも、偶然か?
慣れない場合、これだけでも、5分ぐらい、経過してしまうかもしれません。
でも、慣れてくると、自然な意識の流れで、観察や連想ができるようになります。
逆に、通常の食事の仕方の場合、この段階は、ほとんど、消滅していると言えます。
唯一、「いただきます」と言葉にする瞬間のみ、この段階を、超特急で処理しているとも言えます。
これすら、ない場合、完全に消滅、ですね。
別の言い方をすると、「いただきます」の一言に込められている、もろもろを
食べる瞑想として、展開している、とも言えます。
食材の、何について、誰に対して、「いただきます」と言っているのか、ということですね。
食べながら
さて、では、実際に食材を口に運んでみましょう。
このセクションでは、一転して、6つのチャンネルの中でも、
身体感覚と身体運動に、注意を集中します。
⚪️口に食材を入れる(まだ、噛まない)
舌の上に、食材をのせるだけにとどめます。
舌の上にのった食材の感覚を味わいます。(舌の触覚)
表面の感じや、暖かさ、冷たさも、味わいます(舌の温痛覚)
この時点での味を、感じます(味覚)
のどの奥から、鼻腔にたちのぼる、臭いも、味わいます(嗅覚)
この体験で、自分の体に起きる反応を、観察します。
唾液が出てくる。お腹がグルグルする、など。
集中するために必要なら、目を閉じてかまいません(視覚のチャンネルを閉じる)
⚪️咀嚼を始める
食材を噛むという行為を、一回、一回、自覚しながら、行います。(身体運動のチャンネル)
ムシャムシャーっと、食欲にまかせて、やりません。
スマホを見ながら、機械の単純作業のようにも、やりません。
食材に一定の堅さがある場合、歯が、食材に食い込み、徐々に、切り開いて、ついに切断する、
その過程を、口の中で、感じます。
必然的に、ゆっくりな行為になります。
一回、一回、噛む、という身体運動を続けると、一回、一回、食材は、細かくなっていきます。(当然…)
その結果、最初には味わえなかった味が、出てくる場合があります。
(例:最初は、すっぱさと冷えた感覚だったものが、徐々に、甘さと、自分の体温で暖まり、舌にもなじんでくる、すると、甘い香りも感じられる)
この間、前段(「食べる前に」)でわいてきたいろいろな感覚や連想は、一旦、置いておきます。
まさに、いま、ここで、行っている、咀嚼、という行為に、全神経を集中します。
必要なら、目を閉じてもかまいません。
⚪️飲み込む
十分に咀嚼されたと感じたら、飲み込みます。
ゴックンと、喉の周囲の不随意筋が、嚥下反射として、上手に、こなれた食材を、食道から胃へ、送っていきます。
胃に届いたことを、感じます(身体感覚の「深部固有感覚」にあたります)
この一回の嚥下でも、食材によっては、丁寧にすると、2〜3分はかかるかもしれません。
でも、食べる瞑想が、最もわかりやすく効果を出すのは、この部分です。
実際、過食症の治療では、ゆっくり噛む、最低10回は噛む、などの指導をしています。
早く食べると、満腹感の信号が脳に届く前に、必要以上の食べ物を胃に入れてしまうからです。
加えて、咀嚼の行為に集中できると、効果的に、副交感神経優位のモードに切り替えることができます。
ストレスで過食した、とはよく聞きますね。
これは、消化管が動きはじめると、副交感神経優位のリラックスモードに、自然にカラダのスイッチが切り替わることを本能的に、誰もが知っているからです。
ただ、そのスイッチとして、胃がふくれる、というスイッチしかもっていないと、
ストレスのたびに、胃に食べ物を入れるしかなくなり、
あとで、過食を後悔することになります。
また、その後、インスリンが急上昇し、結果的に、反動で、低血糖になり、また、イライラすることになります。
このスイッチに、ゆっくり噛む、という選択肢を加えると、かなり、スマートです。
練習すれば、そのスイッチで、十分、リラックスモードに入れます。
イライラや、気分の落ち込みなどへの対処として、食べる瞑想は、オススメです。
ガーッとかき込まない。牛のように、噛む。
さらに、もう一つ、大きなテーマがあります。
口の中での咀嚼は、動物が、食材をカラダに取り入れて、栄養にする、「異化」というプロセスの、入り口です。
栄養学上も、大切なポイントですが、
ここでは、スピリチュアルな点について、補足します。
食材は、植物にせよ、動物にせよ、微生物にせよ、生命です。
だから、咀嚼とは、その生命を、自分の生命の維持のために、取り込み、破壊し、取捨選択する行為です。
食材は、その生命を、摂取する者に、犠牲(サクリファイス)として、捧げていることになります。
これが、多くの文明で、食事が神聖なものと認識されていた、基本的な背景です。
機会があれば、続編で、お伝えしたいと思います。
食べ終えてから
リラックスして、全身に起きている、いろいろな感覚を、ゆっくり、味わいます。
特に注目するポイントを挙げると、次の二つでしょう。
⚪️消化管の深部固有感覚
胃が重くなって、血流があつまってきて、暖かくなっている、ゆったり、落ち着いた感覚、など。
⚪️感情
期待が、満たされているか。
満たされた満足感は、どんな味わいか。
咀嚼を始める前と比較して、どうか。
まとめ
特に、療養生活の中では、この、感情への影響が、大きな意義を持ちます。
毎日、必ず、どこかで行う、食べる、という行為。
わざわざ、瞑想の時間を用意せずとも、その時間を、瞑想の時間とすることができる。
気分や思考の悪循環を食い止める、スキルとして、活用できる。
最初は、違和感があるかもしれませんが、
毎日、コツコツ続けると、慣れてくるものです。
是非、チャレンジしてみて下さい。