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2017/09/25

療養のための「食べる瞑想」②:実践編

あなたは食事を摂る時、スマホをいじったり、TVを見ながら食べますか?
燃料を注入する、というノリで、かき込むようにせわしなく食べますか?
カロリーや栄養素に気をつかっている方でも、そのような食べ方になっているかもしれません。

「食べる瞑想」は、食べ物と、それをゆっくり食べるという行為それ自体に、
十分な注意を向ける、そんな食事の仕方を提案しています。

マインドフルネス瞑想の基礎でもあります。

その結果、
icon-check-square-o 食べ過ぎが減る
icon-check-square-o 感情のコントロールがしやすくなる
icon-check-square-o 物事に集中しやすくなる
icon-check-square-o 食べ物を通じてのスピリチュアルな気づきを得る

などの効果が期待できます。

この記事では、この「食べる瞑想」の具体的な実践について、
うつ病、躁うつ病、パニック障害、摂食障害、統合失調症など、
さまざまな精神疾患の療養中の方を念頭に、まとめています。

さっそく、取り組んでみましょう。

基礎知識

とはいえ、まずは、基礎知識の確認です。

食べるという行為は、人のさまざまな感覚を刺激し、人のさまざまな機能に影響を与えます。
食べる瞑想では、その変化をつぶさに観察することになるため、
自分のどこに注目すればよいか、その枠組みを、知っておく必要があります。

一つは、「チャンネル」、という考え方に親しんでおくことです。
これは、プロセス指向心理学の用語です。

人が世界を体験する時、その情報を得るチャンネルを、6つに整理しています。

・視覚
・聴覚
・身体感覚
・身体運動
・他者との関係
・世界との関係

この6つ、ですね。

詳しくは、こちら↓
うつ病の治し方:苦手なあなたのための瞑想入門

もう一つは、「ヒトの4つの機能」という考え方です。
ヒトの持つ機能、ヒトに「できること」をたった4つに、整理してみることです。

その4つとは、

・動く
・感じる
・考える
・信じる

この4つ、です。

詳しくは、こちら↓
習慣を変えるには:行動を変えるだけではダメな理由

特に、
「動く」は、身体・性(対人関係)・お金に細分されます。
「感じる」は、感覚と感情に細分されます。
「考える」は、言葉とイメージに細分されます。

この辺り、詳しくは、こちら↓
習慣を変えるには:マンダラチャートを活用しよう

ちょっと、関連記事を読むのがメンドウですが、
食べる瞑想以外にも、役に立つので、是非、親しんで下さい。

この基礎知識を得ると、食べるという行為を行いながら、
自分が注目すべきポイントが明確になることで、食べる瞑想がやりやすくなります。

注意事項

精神疾患による症状をかかえつつ、初めて食べる瞑想を行う際の、基本的な注意点を記します。

⚪️慣れるまでは、1日10分以上は行わない。
瞑想は、しっかり集中すればするほど、最初のうちは、疲れます。
だから、無理に、一回の食事の全体を、食事の瞑想にする必要はありません。
最初は、一口を飲み込むだけ、ほんの1分間でも、大丈夫です。

⚪️食材の選択
最初のうちは、一回の瞑想で取り組む食材を、一種類の果物や野菜に限定すると、取り組みやすいでしょう。
形態や味に特徴があるものが多いので、それぞれのチャンネルで、注目しやすいからです。
マインドフルネス瞑想では、レーズン・エクササイズが有名ですが、
必ずしも、干しぶどうから始める必要はありません。

また、一口では食べられない大きさのものは、食べる直前に、
噛まずに口に入れられる大きさに処理しておくとよいでしょう。
あるいは、口に入れるとき、一回だけ、噛むという場合は、その一回で、一旦、咀嚼を止めるようにしましょう。
(クチャクチャ噛み始める前の段階で、観察ポイントがあるためです)

カレーライスを食べている時などは、その中の具材の、乱切りのニンジンだけを取り出す、というやり方で、問題ありません。
また、炊いた白米など、普段、よく口にしているものも、新鮮な気分で向き合ってみると、発見がいろいろあるものです。
最終的には、毎日、口にする、あらゆる食材で、チャレンジするとよいでしょう。

⚪️周囲への配慮
食事の瞑想を知らない方にとっては、食事中に、非常にゆっくり長時間、咀嚼していたり、ずっと閉眼していたりする様子は、
異様とも、不快とも、取られかねません。
同時に食事をする周囲の方へ説明しておくか、一人の時に取り組むか。
そうすると、トラブルにならず、よいでしょう。

では、早速、取り組んでみましょう。
具体例には、イチゴを用意しました。

食べる前に

食材を目の前に持ってきます。まだ、食べません。

⚪️食材を、6つのチャンネルにそって、観察していきます。
<視覚>
どんなカタチをしていますか? 何色ですか? 大きさは?
表面は、どんな質感ですか? (例:プツプツある種や、それが埋まっている凹みの微細な局面、小さな毛羽立ち)
どんな視覚的イメージが連想されますか?(例:真っ赤で小さなクリスマスツリー?)

<聴覚>
自ら音を発している食材は、珍しいかもしれません。
でも、トントンと叩いたり、キュッキュッとこすったりすると、楽器のように音を出します。それを観察します。

<身体感覚>
触覚はどうでしょう。まずは、手にとった、重さ。そして表面の手触り。(例:しっかりにぎると、つぶれてしまいそう)
嗅覚はどうでしょう。近づけて、臭ってみます。(例:採れたてなら、土のにおいがするかもしれません)
唾液が出てきて、口の中が湿ってくる感覚も、舌の触覚に含まれますね。
(味覚については、実際に一口、食べてから、観察します。)
お腹がすいてきて、お腹がグルグル鳴る、という感覚も、身体感覚に含まれます(深部固有感覚)。

<身体運動>
まだ、食材を観察しているだけなので、目立った体の動きは乏しいかもしれません。
実際に食べ始めると、もちろん、咀嚼、という顎や歯の動きが出てきます。
でも、この段階でも、自分の体をつかって、観察をすすめることができます。
(例:イチゴの緑の葉をつまんで、ゆっくり振ってみます。まるで、赤い大きなしずくのように感じられるかもしれません)

<他者との関係>
その食材を用意してくれた方は、どなたでしょうか? その方は、どんな思いで、用意してくれたのでしょうか?
自分で購入した場合なら、売ってくれた方は、どなたでしょうか? その方の思いは?

<世界との関係>
その食材は、どこで生産されたのでしょうか? どんな農家で、どんな思いで、育まれたのでしょうか?
その食材を育てるのに、必要だった、日光、雨、大気、土壌は、どんな役割を果たしたでしょうか?

また、出荷された後、どのように運搬され、市場に出され、小売り店が買い、保管し、パックし、商品棚に並んだでしょうか?
いま、目の前にある、一口の食材が、あなたの目の前に届くまで、気の遠くなるほど膨大な、自然と人・物の連鎖が、存在します。

その連鎖に、思いをはせましょう。

⚪️さらに食材を「4つの機能」にそって、観察します。

6つのチャンネルによる観察と重なる部分があります。
そこを省略すると、ポイントは、以下の3つ。

まず、感情

その食材を前にして、どんな感情がわいてきていますか? ワクワクする、ドキドキする?
それとも、早くたべたくて、イライラしている?

(例:以前に食べておいしかった、やや高級なイチゴをふんぱつして買った。絶対、おいしいぞ…という幸せ感)
(例:自分の好物だからと、家族が買ってきてくれた。ありがとう…、という感謝の気持ち)
(例:お見舞いにこんな高価なイチゴを…私はイチゴ、あまり好きじゃない…申し訳ないという気持ち)

次は、お金

その食材を購入するために、必要なお金は、どれぐらいだったか?
そのお金は、誰が、出してくれているのか? そのお金を手に入れるために、どれほどの苦労があったか?

最後は、「信じる」。

この食材が、いま、あなたの目の前に現れています。
この現実を生み出している力が、何だと、あなたは信じていますか?

自分の財力か? 自分の人徳か? 家族の愛や義理か?
日本が先進国だからか? 物流が優れているからか? 栽培技術が優れているからか?

仏教が教える「縁」か? キリスト教が教える「神の慈悲」か?
それらを超えた、大自然の恵か?
それとも、弱肉強食の生態系の一部になっているからに過ぎないのか?

それとも、偶然か?

慣れない場合、これだけでも、5分ぐらい、経過してしまうかもしれません。
でも、慣れてくると、自然な意識の流れで、観察や連想ができるようになります。

逆に、通常の食事の仕方の場合、この段階は、ほとんど、消滅していると言えます。
唯一、「いただきます」と言葉にする瞬間のみ、この段階を、超特急で処理しているとも言えます。
これすら、ない場合、完全に消滅、ですね。
別の言い方をすると、「いただきます」の一言に込められている、もろもろを
食べる瞑想として、展開している、とも言えます。

食材の、何について、誰に対して、「いただきます」と言っているのか、ということですね。

食べながら

さて、では、実際に食材を口に運んでみましょう。

このセクションでは、一転して、6つのチャンネルの中でも、
身体感覚と身体運動に、注意を集中します。

⚪️口に食材を入れる(まだ、噛まない)

舌の上に、食材をのせるだけにとどめます。
舌の上にのった食材の感覚を味わいます。(舌の触覚)
表面の感じや、暖かさ、冷たさも、味わいます(舌の温痛覚)

この時点での味を、感じます(味覚)
のどの奥から、鼻腔にたちのぼる、臭いも、味わいます(嗅覚)

この体験で、自分の体に起きる反応を、観察します。
唾液が出てくる。お腹がグルグルする、など。

集中するために必要なら、目を閉じてかまいません(視覚のチャンネルを閉じる)

⚪️咀嚼を始める

食材を噛むという行為を、一回、一回、自覚しながら、行います。(身体運動のチャンネル)
ムシャムシャーっと、食欲にまかせて、やりません。
スマホを見ながら、機械の単純作業のようにも、やりません。

食材に一定の堅さがある場合、歯が、食材に食い込み、徐々に、切り開いて、ついに切断する、
その過程を、口の中で、感じます。
必然的に、ゆっくりな行為になります。

一回、一回、噛む、という身体運動を続けると、一回、一回、食材は、細かくなっていきます。(当然…)
その結果、最初には味わえなかった味が、出てくる場合があります。

(例:最初は、すっぱさと冷えた感覚だったものが、徐々に、甘さと、自分の体温で暖まり、舌にもなじんでくる、すると、甘い香りも感じられる)

この間、前段(「食べる前に」)でわいてきたいろいろな感覚や連想は、一旦、置いておきます。
まさに、いま、ここで、行っている、咀嚼、という行為に、全神経を集中します。

必要なら、目を閉じてもかまいません。

⚪️飲み込む

十分に咀嚼されたと感じたら、飲み込みます。

ゴックンと、喉の周囲の不随意筋が、嚥下反射として、上手に、こなれた食材を、食道から胃へ、送っていきます。
胃に届いたことを、感じます(身体感覚の「深部固有感覚」にあたります)

この一回の嚥下でも、食材によっては、丁寧にすると、2〜3分はかかるかもしれません。
でも、食べる瞑想が、最もわかりやすく効果を出すのは、この部分です。

実際、過食症の治療では、ゆっくり噛む、最低10回は噛む、などの指導をしています。
早く食べると、満腹感の信号が脳に届く前に、必要以上の食べ物を胃に入れてしまうからです。

加えて、咀嚼の行為に集中できると、効果的に、副交感神経優位のモードに切り替えることができます。
ストレスで過食した、とはよく聞きますね。
これは、消化管が動きはじめると、副交感神経優位のリラックスモードに、自然にカラダのスイッチが切り替わることを本能的に、誰もが知っているからです。

ただ、そのスイッチとして、胃がふくれる、というスイッチしかもっていないと、
ストレスのたびに、胃に食べ物を入れるしかなくなり、
あとで、過食を後悔することになります。
また、その後、インスリンが急上昇し、結果的に、反動で、低血糖になり、また、イライラすることになります。

このスイッチに、ゆっくり噛む、という選択肢を加えると、かなり、スマートです。
練習すれば、そのスイッチで、十分、リラックスモードに入れます。

イライラや、気分の落ち込みなどへの対処として、食べる瞑想は、オススメです。
ガーッとかき込まない。牛のように、噛む。

さらに、もう一つ、大きなテーマがあります。

口の中での咀嚼は、動物が、食材をカラダに取り入れて、栄養にする、「異化」というプロセスの、入り口です。
栄養学上も、大切なポイントですが、
ここでは、スピリチュアルな点について、補足します。

食材は、植物にせよ、動物にせよ、微生物にせよ、生命です。
だから、咀嚼とは、その生命を、自分の生命の維持のために、取り込み、破壊し、取捨選択する行為です。
食材は、その生命を、摂取する者に、犠牲(サクリファイス)として、捧げていることになります。
これが、多くの文明で、食事が神聖なものと認識されていた、基本的な背景です。
機会があれば、続編で、お伝えしたいと思います。

食べ終えてから

リラックスして、全身に起きている、いろいろな感覚を、ゆっくり、味わいます。
特に注目するポイントを挙げると、次の二つでしょう。

⚪️消化管の深部固有感覚

胃が重くなって、血流があつまってきて、暖かくなっている、ゆったり、落ち着いた感覚、など。

⚪️感情

期待が、満たされているか。
満たされた満足感は、どんな味わいか。
咀嚼を始める前と比較して、どうか。

まとめ

特に、療養生活の中では、この、感情への影響が、大きな意義を持ちます。

毎日、必ず、どこかで行う、食べる、という行為。
わざわざ、瞑想の時間を用意せずとも、その時間を、瞑想の時間とすることができる。
気分や思考の悪循環を食い止める、スキルとして、活用できる。

最初は、違和感があるかもしれませんが、
毎日、コツコツ続けると、慣れてくるものです。

是非、チャレンジしてみて下さい。