ADHDとは何か:注意のスタイルにおける少数派
さて、今回は、
発達障害の一つ、
注意欠陥多動性障害についてです。
英語では、
attention-deficit hyperactivity disorder
となるので、
頭文字をとって、
ADHD、となります。
発達障害については、
このメルマガでも、
自閉症スペクトラムについて、
扱ってきました。
その際、説明した、
発達障害についての基本的な考え方は、
ADHDでも、同じです。
ヒトの発達における
少数派であること。
そして、その特性が、
社会生活を困難にする状況に至らないと、
診断されない。
だから、膨大な予備軍がいる。
これらが、ポイントでした。
詳しくは、こちら↓
発達障害とは:診断を受ける前に知っておくべきこと
・・・
実際、クリニックでも、
成人になってから、
初めてADHDと診断されるケース、
増えています。
仕事がうまくいかず、
うつになって、受診。
でも、原因を探っていくと、
ADHDの特性が浮き彫りに、
というパターンが多いです。
最近は、
書籍やネット上でも、
発達障害の情報が氾濫しているので、
患者さんご自身が、
自分はADHDではないか、と
問診票にかかれる場合もあります。
でも、ADHDと診断された方に、
その診断の意味を、
短い診察時間でお伝えするのは、
なかなか、大変です。
今回は、
それを補う目的で、
成人のADHDについて、
まとめてみます。
・・・
ADHDの症状ですが、
うっかりミスや、
忘れ物が多い、
すぐ気が散る、
計画的にできない、
などの、
「注意欠陥」の系列と、
じっと座っていられない、
順番が待てない、
などの
「多動・衝動性」の系列とに、
分かれます。
成人のADHDの場合、
ほとんどは、
「注意欠陥」の系列で、
業務に支障を来しています。
なので、今回は、
「注意欠陥」にしぼって、
お話します。
・・・
そもそも、
「注意欠陥」って、
最悪なネーミングですよね。
こんな診断を
言い渡された日には、
落ち込まざるを得ません。
実情は、
「注意」に
「欠陥」があるのではなくて、
「注意」の「スタイル」が
少数派なだけ。
この辺りの事情を、
次のイメージで、
説明してみましょう。
・・・
ヒトの脳の中には、
作業台となるテーブルと、
そのテーブルを照らす
スポットライトがある、
とイメージしましょう。
ヒトが何かの作業をする時、
まずは、作業台の上に、
必要な情報が、置かれます。
それは、
現在進行中の外界の情報であったり、
ついさっきの上司の指示であったり、
数日前のレポートの内容であったり、
するわけです。
そして、
「注意」というスポットライトを、
その情報に、当てる。
そして、作業を始める…
…わけですが、
この「注意」のスタイルに、
このスポットライトの当て方に、
多数派と少数派がある。
・・・
多数派は、
スポットライトの動かし方が、
まあ、そつがない。
どんな作業であっても、
作業が終わるまでは、
一定の場所を照らし続け、
必要に応じ、
テーブルの別の箇所を照らしたり、
ちょっと引いた所から、
テーブル全体を照らしたり、
スポットライトを二つに分けて、
別々の箇所を、同時に照らしたり…。
多数派は、
器用にできるんです。
このようなスタイルの
スポットライトの当て方を、
発達の過程でやり続けると、
テーブル自体が成長につれて、
大きく広く、なっていきます。
成人になった時、
けっこう、何種類もの情報を、
テーブルの上に同時に置いて、
作業ができるようになる。
その状況は、
「マルチタスクができる」
とも言われます。
また、このような
テーブルの大きさと、
スポットライトの器用さは、
計画的に物事を進める際に、
必要となります。
・・・
この多数派と比べると、
少数派は、
ものすごく気まぐれに見えます。
まず、たいていの場合、
テーブルの上の、
一定の場所を照らし続けるということが、
ひどく苦手。
テーブルの上に、
別の情報が入ってくると、
すぐスポットライトが
そっちに向いてしまう。
(すぐ気が散る)
スポットライトの
ロックが、できない。
刺激があると
フラフラ動いてしまう。
そして、元来の、
照らすべきテーブル上の位置が、
わからなくなってしまう。
これが、いわゆる
「注意欠陥」と呼ばれる状況の、
原風景です。
実際の職場では、
こんな状況になります。
ある作業に取り組んでいる時、
上司から、別の指示が出て、
その別の作業をやった後、
最初の作業を、完全に忘れてしまう。
で、上司に怒られる。
これが、どんなに注意しても、
どんなにメモを残しても、
悲しいぐらいに、そうなってしまう。
これが、ADHDの方の、
体験している世界です。
また、多数派のように、
テーブル全体を照らしたり、
二箇所を同時に照らしたりなど、
器用なことは、できません。
このようなスタイルの
スポットライトの当て方を、
発達の過程でやり続けると、
テーブル自体が、成長につれて
多数派のように、
大きく広くなっていくということが、
ない。
多数派に比べて、
テーブル自体が、狭い。
(神経心理学では、このテーブルのことを
ワーキング・メモリーと言います)
だから、
どんどん、
テーブルの上に情報を置いても、
どんどん、
テーブルの端から落ちていく。
(=忘れてしまう)
そして、多数派と真逆。
計画的に物事を進めることが苦手。
・・・
ところが…、です。
このADHDの方のスポットライトが、
何かの拍子に、
完全にロックされる場合が、あります。
その時、
多数派には
想像できないほどの集中力で、
一つの作業を
続けることができる。
どこが「注意欠陥」だ、
というぐらいに…。
この時、
スポットライトを器用に使えなくても、
テーブルが狭くても、
ぜんぜん、関係ない。
というか、
逆に、集中できるのか?
(たぶん、そうなんだろう)
そのパフォーマンスの成果は、
多数派がおよそ到達できない
レベルの場合も多い。
(発明王と言われるエジソンは
ADHDだったのではないかと、
言われています)
平たく言うと、
「一点豪華主義」、
ということでしょうか。
・・・
でも、この一点豪華主義の特性は、
もちろん、診断基準には、
入っていません。
だから、ADHDの診断は、
多数派と比較して、
劣っている特性のみで、
評価されている、ということです。
また、
この一点豪華主義の特性を
職業上、
活かすことができているなら、
社会生活に支障がない、
と評価され、
ADHDの診断に至らない場合が、
ありえます。
ADHDの予備軍の中には、
このような方が、
多くおられるはずです。
・・・
さて、
ADHDと診断された時、
Do:
自分の特性の中で、
多数派より
劣っている部分を知り、
それを補う努力をする一方、
多数派より
優れている部分もあることを知り、
それを活かす道を探る。
Don’t:
自分は多数派より
何もかもが劣っている…
その不正確な認識のみを
自分に刻み込んで、
落ち込む。
さて、次回は、
ADHDの特性を活かしている
実際のケースをご紹介します。
いかがでしたでしょうか?
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