2019/08/26
森田療法入門⑦:自分にあった対処行動を見つけるためのヒント
さて、6回に渡ってお送りした
森田療法のシリーズですが、
今回が最終回です。
前回はこちら↓
今回は、
森田療法の中でも
重要な位置を占める
作業療法についのお話です。
精神科の作業療法とは、
現在では、
精神科病院の作業療法室や
デイケアなどで行われている、
紙や革を使ったクラフトワークや、
各種スポーツなどの活動を
指す場合が多いです。
でも、
入院による森田療法の場合、
そのイメージはかなり異なります。
入院の最初のステップは
「絶対臥褥(ぜったいがじょく)」でしたね。
隔離されたまま、
終日、床に横になっている…。
その次のステップは、
徐々に、日常生活の中で、
活動の種類や量を、
増やしていくわけですが、
いわば、その活動の全てが、
作業療法と位置づけられています。
つまり、
まずは日中、戸外に出て、
日光を浴びる、という行動や、
日記をつける、読書をする、
庭をほうきで掃いたり、
トイレを掃除したり…
最後には、畑仕事などの
重労働までを含みます。
このような日常的な行動に
治療的な意義を持たせることが、
なぜ、できるのでしょうか?
それは、森田療法が、
ヒトの「動く」という機能に対して、
深い洞察を持っているからですね。
ポイントは2点、あります。
順に、見ていきましょう。
・・・
<「自発的活動の重視」>
入院の最初の絶対臥褥の時期、
吹き荒れる感情に
「あるがまま」に
耐え抜いた患者さんは、
心身の平穏が訪れる一方で、
何もしないことの手持ちぶさたを
強く自覚するようになります。
この状況を森田先生は、
絶食した後、
ものすごく何かが食べたくなる、
純粋な食欲の感覚に似ている、
と指摘します。
だから、そんな時、
炊いた白米とお漬け物だけの
質素な食事でも、
すごくおいしい、と感じるように、
絶対臥褥の時期を終え、
初めて、戸外の日光と空気を吸う時、
すごく「おいしい(快感)」と
感じることに、なるわけです。
質素な食事でも、
純粋な食欲が満たされると
快感があるように、
簡単な行動でも、
純粋な「活動欲」が満たされると
快感があるわけです。
だから森田療法では、
「次はこんな活動がしてみたい」という
患者さんの自発的な意欲を
しっかり確認しつつ、
次の、より複雑な日常生活の行動を
提案していくわけです。
すると、どうなる?
いままで、
こうすべきだ、と
他人に言われたり、
自分が思い込んでいたりした、
すべての日常生活の行動を、
「活動欲」が満たされる
快感とともに、
再体験することになります。
ヒトの「動く」という機能には、
このような、
快感を解き放つパワーが
あるんですね、本来は…。
そして、もう一つ。
・・・
<「気分本位の打破」>
これは、平たく言うと、
気分が乗ろうが、乗るまいが、
やると決めた日課は
ずべこべ言わず淡々とやれ!
ということ。
お庭の掃除も、
トイレの掃除も…。
むむむ、これ、
先ほどの「自発的活動の重視」と
真逆ではないか…
確かに、そうなのですが、
これも、「動く」とう機能の
パワーを活用するための、
卓見なのです。
気分本位を打破して
やり続けた日課は、
「よい習慣」になります。
それは、
意欲や感情の波に影響されない、
自分の大切な一部に成長して、
逆に、
自分を支えてくれるわけですね。
つまり、
純粋な「活動欲」によって
誕生した、ある「行動」は、
丁寧に育てると、
その「活動欲」の有無を問わず
安定して機能する
「習慣」に成長する、
と言えるでしょう。
・・・
さて、では、
これらの洞察は、
私たちの療養生活に、
特に、
感情リテラシーの実践に、
どのように役立つでしょうか?
・・・
強い感情に圧倒された時に、
自分が取れる対処行動を
どうやって準備するか、
その指針になる、ということです。
ヒトの四つの機能のうち、
「感じる」がのたうちまわっている時、
それに吹き飛ばされない、
「動く」を用意する、ということ。
たとえ、
呼吸法や瞑想法が効くよ、と
他人にすすめられたとしても、
その行動に、
一瞬でも「快感」を覚えたことのない方は、
それを習慣にすることは、
難しいでしょう。
一方、例えば、
歯磨きが好き、
口の中がスッキリする感じが
たまらない、という方は、
それを、対処行動に「成長」させることは、
可能です。
抑うつ気分がひどい時、
その歯磨きも、できなくなってしまう。
まさに「気分本位」。
でも、
余程の抑うつ状態でなければ、
歯磨き程度の作業は、
実は、体力的に、
できない訳ではない。
そこで、
「気分本位の打破」。
いわば、たましいをこめて、
歯磨きをするわけです。
自分は、抑うつ気分に
完全には、
吹き飛ばされはしないぞ、と。
それが、習慣にまで
成長した時、
立派な、対処法になっているハズです。
(実際、診療で
そのように指導した患者さん、います)
・・・
強い感情への
対処法に困った時、
Do:
自分にとって
快感を感じられる行動を探し、
強い感情に襲われた時でも
その行動が取れるように
習慣化する。
例:
ひたすら文字を書く
お気に入りのアーティストの音楽を聴く
シャワーを浴びる
とにかく寝る
祈る
Don’t:
快感を感じたことがないのに、
他人からすすめられた対処法を
なんとか習慣化しようとするも
挫折し、自己嫌悪に陥る。
いかがでしたでしょうか?
同じ悩みをお持ちの方は、
ぜひ一度、お問い合わせください。