2022/03/07
身体リテラシー入門㉒:内受容感覚を育てる身体ワーク −太極拳を例に−
さて、身体リテラシーのシリーズ、
とうとう、22回目です。
前回はこちら↓
前回は、架空のB子さんの
「加害恐怖」がテーマでした。
それが、
人が誰しも持っている、
「死」だけではなく
「生」に関するエネルギー、
特に「戦う」エネルギーと
関連しているのではないか。
それをB子さんが
十分にコントロールできないから、
エッジができてしまい、
それを「加害恐怖」として
感じてしまうのではないか。
そのような担当医の仮説を
シェアしたところで
前回は終わっていました。
今回も、診療の続きを
追ってみましょう。
・・・
担当医:
B子さんって、
映画とかドラマ、
ご覧になりますか?
「戦う」エネルギーが
あふれているもの、何か
パッと、思い出せますか?
B子:
そうですね・・・、
カンフー映画とか
見たりはしますね、
あまりグロいのはダメですが・・・
もちろん、私自身は
やったことないですけど(苦笑)
担当医:
カンフー映画?!
すばらしい・・・。
太極拳って、
ご存知ですか?
B子:
はい・・・、それももちろん
やったことはないですが、
ゆーっくりした動きで、
おじいさん、おばあさんたちが
中国の公園で朝、やっている
あれ、ですよね?・・・
担当医:
そうそう。
ところで、うーん、いま、すごく
いいことを思いつきましたよB子さん、
身体ワークとして、
太極拳の初歩、やってみるって
すごく、いいと思います、
根源的な不安にもだけど、
特に、加害恐怖に対して。
B子:
?
担当医:
実は私、中国の武術の先生に
ちょっとだけ習ったことがあるんです、
太極拳。
最初の簡単な動き、
一緒にやってみませんか?
・・・
担当医とB子さんは
一緒に立ち上がって、
起勢(チーシー)という動きを
やってみました。
両脚は肩幅に開いて、
背筋をスッと楽に伸ばす。
両腕は脱力しているが
脇にはそっと卵が挟めるぐらいの
空間ができている。
ゆっくり膝をゆるめて
腰を大地にまっすぐ
沈みこませるように下げながら
起勢が始まる。
膝を今度は伸ばしながら
同時に手の甲を正面にして
両腕を前に挙げていく。
まるで、手の甲を筆のように
下から上へ、
前に壁があったらそこに
下から上へ
ゆっくり毛筆の線が
描けるかのように。
膝が伸びきり
腰の位置が元の高さに戻ると、
再び、膝をゆるめて腰を落としていく、
今度は、手の腹と指で
上から下に、毛筆の線を描くように
ゆったりと両腕を下げていく。
肘も肩も力まず、まるで
海面がゆったりと上下する、
それに浮いている腕のように・・・。
このゆったりとした
足腰と両腕の動きを
しばらく、一緒に
繰り返してみました。
・・・
B子さんは、
ちょっと汗ばむくらい
真剣に繰り返し、
おおよそ、段取りがわかった後は、
自分の世界に入り込んで
担当医が無言で見守る中
黙々と続けてしまいました。
担当医の声かけで
一旦、ストップ。
担当医は、動きの
武術的な意味について
体を使いながら説明しました。
腕を挙げる動きは
俊敏にすれば
相手の突きを払う動き、
腕を下げる動きは
俊敏にすれば
相手の蹴りを払う動きに、
そのまま使える、と。
太極拳の他の動きも
すべて、攻撃か防御、
いずれかの武術的意味がある、
それをものすごくゆっくり、
スローモーションのように
やっているだけなんだ、と。
そして、
担当医が突きの動きをして
B子さんが、それを払う、
担当医が蹴りの動きをして、
B子さんが、それを払う、
それぞれ、ゆっくりながらも
しっかり力を入れて、
お互いの力が
グッと、やり取りできるように
からだをぶつけて、
何回か、練習もしました。
・・・
ワークが終わった後、
振り返りの時間になりました。
担当医:
どんな印象でしたか?
B子さん:
なんというか、言われた通りに
するのは難しいですが
とにかく、こんな体の
使い方を今までしたことがなくて・・・
新鮮ですね・・・
今までの体育の時間とか、
大嫌いでしたが、これは、別ですね、
なんだか、ずっと
やっていられそうというか・・・
疲れますが、けっこう・・・
でも、その感覚の世界に
入っていける、というか・・・。
担当医:
いまやったワークは、
B子さんが、
もともと、あまり得意ではない、
身体運動のチャンネルを、
B子さんが、イヤな感じならずに
ほとんど、はじめて、
使ってみた、そんな体験に
なっていると思います。
B子さん:
確かに・・・。
担当医:
いまは、今回のワークで得た、
この何とも言えない感覚を
継続的に育てていく、
それに注力すればよいと思います。
でも、このような、
身体運動のチャンネルを使った
ワークが、B子さんにとって
どんな意義があるのか、
ちょっと先回りをして
見取り図のようなもの、
お伝えしますね。
一番の意義は、
B子さんが持っているはずの
「生」に関するエネルギー、
特に「戦う」エネルギーですね、
それをしっかり、からだを使って
表現する、そのきっかけになる、
ということです。
B子さん:
「戦う」エネルギー、
ですね・・・。
担当医:
そう。
もちろん、B子さんが
武術としての太極拳を修得して
実戦としての格闘技の達人になる必要は
まったく、ありません。
が、
今回のようなワークを通じて、
「戦う」エネルギー、
その、何というか
エッセンス(本質)のようなもの、
それを身につけてもらうとよい。
B子さん:
エッセンス?
担当医:
そう。
ものすごくシンプルにまとめると、
「ふんばる」という動きと、
「すばやい」という動き、
だね。
B子さん:
???
担当医:
実際の格闘の場面を、
イメージしてもらうといいかな。
相手が殴ってきました。
とっさによけて、
頭部への直撃は避けられたが
肩にもろにもらってしまった。
吹っ飛びそうになるが、そこを
「ふんばる」。
そして、間髪いれず、
相手との間合いを
「すばやい」足さばきで詰めて、
がら空きの脇腹に
「すばやい」突きを入れる。
格闘って、ほとんど、
この繰り返しですよね。
B子さん:
確かに(苦笑)
カンフー映画、そうですよね。
担当医:
戦いを生き延びるには、
「ふんばる」だけでも
ダメ。
「すばやい」でけでも、
ダメ。
一見、背反する動きだけど
両方が、大切。
B子さん:
わかります。
担当医:
だから、
B子さんが、自分が持っている
「戦う」エネルギー、
それを、自分のからだで
しっかり表現するためには、
「ふんばる」動きと
「すばやい」動き、
その二つを意識して
練習すればよい。
B子さん:
ふむふむ。
担当医:
そして、その二つはどちらも、
今回の「起勢」の動きに
含まれています。
腰を下ろしながら
「ふんばる」し、
再度、浮上するときも、
「ふんばる」。
腕の上下の動きは、
スローモーションになってはいるが、
余分な力を抜いて
腰の芯と腕がつながった感覚が
得られれば、いつでも
ムチのように、使えるようになります、
つまり「すばやい」。
B子さん:
さっきのワークの最後に
一緒にやった、あの感覚、
ですね。
担当医:
その通りです。
B子さん:
つまり、私がいまだ
よく自覚してない、
というより、恐がっている、
自分の「戦う」エネルギーを、
このようなワークを通じて、
「表現」することで、
ちょっとは、自覚できるようになる?
そうすると、
恐がらずにすむ?
ということでしょうか?
担当医:
そういうことです。
そして、もっと言うと、
自分の「戦う」エネルギー、
つまり「生」に関するエネルギー、
それが自分でよく
自覚できるようになると、
「死」に関するエネルギー、
つまり「根源的な不安」とも
バランスをとって
付き合いやすくなる、
そんな見通しが持てる、
ということです。
B子さん:
イメージはわかりました。
・・・
今回は、ここまでです。
B子さんは、その後、
担当医の紹介で
太極拳の教室に
通うようになりました。
半年後の様子を
次回、お伝えしますね。
・・・
根源的な不安に
さいなまれている時、
それと共生するための
身体リテラシーのスキルに
取り組むにあたって、
Do:
自分の特性に合った
身体ワークは、
内受容感覚を
身体運動のチャンネルを通じて
表現することによって、
より受け入れやすくすることが
期待できる、と知る。
Don’t:
自分の特性に合わない
身体ワークを続けて、
それが自分の内受容感覚の
表現になっていないため、
単なる身体ワークで
終わってしまう。
いかがでしたでしょうか?
同じ悩みをお持ちの方は、
ぜひ一度、お問い合わせください。