2022/03/14
身体リテラシー入門㉓:身体とのコミュニケーションの実情
さて、身体リテラシーのシリーズ、
23回目です。
前回はこちら↓
前回は、B子さんが担当医と
一緒に取り組んだ
身体ワークを紹介しました。
太極拳の基本的な動きである
起勢(チーシー)が素材でしたね。
その「型」を使って、
B子さんの「戦う」エネルギーという
内受容感覚を、
身体運動のチャンネルを使って
表現する、つまり
その身体ワークが
チャンネル・スイッチになっている、
という内容でした。
特に、
「ふんばる」と「すばやい」という、
異なる身体運動の質に注目することが
コツだとも、お伝えしました。
文章だけでは、
伝わりにくいと思いますので、
上述の、
前回のメルマガを記事化したブログの
アイキャッチ画像には、
ドニー・イェンという中国の
アクション俳優の演舞を収録した
動画を載せています。
動画の序盤は、
ドニー単独の、詠春拳の練習風景。
中盤は、集団による
すばやい武術的な動きの演舞。
終盤は、
一般市民が太極拳に取り組む
様子を背景映像として流しつつ、
壇上のドニーが、
ゆっくりした太極拳の動きの中に
武術的なすばやい動きを随所に見せる、
「ふんばる」と「すばやい」の
切替がわかりやすい
美しい演舞となっています。
さて、今回は、
そんな太極拳の教室に通い始めて
半年が経ったB子さんの
報告から、始めましょう
・・・
B子さん:
もう、半年になるんですね。
たぶん、今の自分に
必要だという感覚があるのでしょう、
続けることができています。
起勢(チーシー)は
毎回、やるのですが、
今では、その他のいろいろな
動きも習っています。
馬歩(マーブー)などは
これぞ「ふんばる」という感じ。
両膝を左右に開いて
腰を落とすんですけど、
初めの頃は、脚がプルプルして
翌日、筋肉痛でした(苦笑)
私のレベルでは
「すばやい」動きって
まだ、出てこないんですけど、
先輩たちは、やってますね、
ビュッビュッて。
それでも、みんなで一緒にやる
ウォームアップでは、
ストレッチも兼ねて、
回し蹴りをやるんです・・・(苦笑)
ぜんぜん、脚の高さは
上がりませんが、
まさに、武術的な
「すばやい」動きの感覚、
確かに、ありますね。
まさか、こんな世界で
自分のからだを
こんなふうに使ってみるとは
思ってもみませんでしたが。
担当医:
半年、続けてみて、
自分のからだとの付き合い方、
何か、変化って、ありますか?
B子さん:
すごくヘンなふうに聞こえるかも
しれませんが、
付き合い方が変わった、というよりも
はじめて、自分に
からだが「ある」って、気づいた?
そんな感覚があります。
さっきお伝えした
筋肉痛なんかも、
そんな感じですね、
こんなところが
こんなふうに痛むんだ、
という、なんというか
驚きのような感覚・・・、
痛いからイヤなんですけど。
担当医:
それって、B子さんなりの
からだとのコミュニケーションが
始まっている、と言って
いいように思います。
B子さん:
私も、そう思います。
太極拳の先生が、
自分の脚の位置や
腕の置き方など、
繰り返し、指導して下さって・・・、
私、どんくさいもんで(苦笑)
その都度、そうだったな、と
修正するんですけど、
その修正が、なんというか
コミュニケーション、
という感じですね、
自分のからだとの。
・・・
担当医:
加害恐怖や、
根源的な不安や、
ちょっとした発作など、
最近の様子は、どうですか?
B子さん:
なんとなく、なんですが、
マシなような気はします。
何が、どうなって
そうなっているのか、
全く、わかりませんが。
太極拳、という
新しい取り組みができて
それに、自分の注意が向いていて、
結果的に、マシになっている、
という感じもしますが、
なんというか、単に
それだけではないようにも
思いますね。
担当医:
私からみても、
以前のB子さんと比べて、
なんだか、ご自身の雰囲気が
落ち着いておられるように思います。
B子さん:
そうですか?
逆に、以前はそうではなかった?
担当医:
そうですね。
何というか、ちょっとした
刺激にびくびくして、
からだが、いつも
警戒モードにある、という感じかな。
B子さん:
そうかも知れません。
確かに、加害恐怖は減ってます。
自分では、何か
努力した感じはないんですけど。
担当医:
以前お伝えした「仮説」が
合っているのではないでしょうかね。
B子さんを含め
誰もがもっている
「戦う」エネルギー。
その表現の仕方がわからない
B子さんは、そのエネルギーを
恐がっていた。
それが、今は、
「ふんばる」や「すばやい」
という表現の仕方を
身につけはじめている。
だから、
「戦う」エネルギーが
B子さんのからだの中にあっても
B子さん自身が、困らなくなっている。
B子さん:
なるほど、確かに。
そういうものなんですね。
確かに、すごく、汗、かきます。
脚も腕も、ぷるぷるします(苦笑)
エネルギーが自分のからだを
流れていっている、というのは
わかります。
担当医:
その感じが、とても大切です。
いま、B子さんは、
自分が不得意な
身体運動のチャンネルを開発中なんだ、
ということですね。
その意義は
どこにあるのでしょう?
スバリ、
身体感覚のチャンネルに
あふれているいろいろな
内受容感覚、それを
自分のからだを通じて
エネルギーとして放出できるようになる、
という点にあるわけです。
それって、別の言い方をすると、
身体感覚のチャンネルの
「キャパ」を広げている、
ということになる。
B子さん:
・・・(目が点になる)
担当医:
つまり、
根源的な不安や加害恐怖、
そんなエネルギーが
あふれているプールに
水路をつくってあげる、
というイメージでもよい。
B子さん:
やり場のない
内受容感覚のエネルギーを
担当医:
身体運動のチャンネルを通じて
B子さん:
放出する。
担当医:
そう、そういうことです。
B子さん:
いま、私は太極拳を通じて
それをやっている。
担当医:
そう、そういうことです。
・・・
さて、B子さんの
診療の経過のシェアは
以上です。
ついに、この長大なシリーズも
次回で最終回です。
小椋の知る、ある
臨床心理士の先生から教わった
「人の一生とは・・・」という
名言をご紹介し、
それをヒントに
シリーズ全体をまとめてみます。
・・・
根源的な不安に
さいなまれている時、
それと共生するための
身体リテラシーのスキルに
取り組むにあたって、
Do:
身体運動のチャンネルを開発することが
身体感覚のチャンネル、
特に内受容感覚を育てる
有力な方法となり得ると知る。
Don’t:
身体運動のチャンネルを
自分に合わない方法で
開発しようとして、
根源的な不安との共生が
うまくいかない、と落ち込む。
※次回の編集後記で
太極拳以外に
どんな方法があるか
実例をご紹介しますね。
いかがでしたでしょうか?
同じ悩みをお持ちの方は、
ぜひ一度、お問い合わせください。