発達障害とは:まず、自閉症の本質を知ろう
さて、今回は、
前回に続き、発達障害がテーマです。
前回はこちら↓
発達障害とは:診断を受ける前に知っておくべきこと
前回のポイントは、
発達障害という用語を、
ヒトの発達に関する、
多数派と少数派の、
境界のあいまいな群れの中で、
考えよう、
というものでした。
これが、まさに、
スペクトラム、
という考え方です。
最近の診断基準では、
広汎性発達障害、ではなく、
自閉症スペクトラム、
と呼ばれるようになりました。
これは、いわば、
コップ一杯の水の中に、
自閉症、という色素が入っていて、
底の方には、
その色素が濃縮されている。
表面に近づくにつれ、
だんだん、薄くなって、
表面は、色素がない。
そのグラデーション
(=スペクトラム)を
イメージするとわかりやすい。
コップの底が、
最重症の自閉症の方。
表面が、いわゆる健常者の方。
わたし、発達障害ですか?
という質問の答えは、
あなたがいるのが、
このスペクトラムのこのあたりだ、
ということになります。
でも、
その答えの意味するところを
理解するには、
そもそも
「自閉症の色素」が
どんなものなのか、
知っておく必要があります。
色素、という言葉を
エッセンス(本質)と
言いかえてもよい。
それは、何でしょうか?
以下は、
実際、小椋が外来で担当した、
重度の自閉症の、
中年男性の方の例です。
(一部、修正しています)
小柄できゃしゃ、
表情は小学生のように幼い。
視線はいつも、微妙に合わない。
問いかけに、ちょっとモジモジしても、
一度も、声を発したことがない。
不意に、立ち上がって、
診察室のカレンダーをいじり始める。
同伴のご両親は、
「いつもの調子です」
「ふすまを外したり、
仏壇をつぶしたり・・・」
「公園の噴水には、
毎日、行ってます」
「保護室の時が、
一番、落ち着いてましたね」
理由はわからないが、
とにかく、気になるものを、
壊してしまう。
ご両親が疲れ果て、
先日、初めて短期間の入院に。
でも、
何もない保護室に入ったとたん、
すごく落ち着いていたらしい。
噴水が大好き。
なぜだろう・・・
瞳は、すごく、澄んでいる。
穏やかな笑顔。
破壊はするが、
天使がいたとしたら、
こんな瞳か、とも思う。
担当医としては、毎回、
破壊活動を少しでも押さえるための、
頓服を処方し、
ご両親のご苦労を
ねぎらうことしかできない。
・・・
発達の経過は、
まさに少数派。
お母さんとも視線が合わず、
だっこされることを極端に嫌った。
言葉が出るのも、歩くのも
すごく遅かった。
意味なく手や足をぐるぐる動かし、
誰ともかかわろうとせず、
無理にこちらからちょっかいを出すと、
ひどく怒った。
重度の知的障害も合併していた。
ご両親のケアがなければ、
生活は成り立たない。
・・・
この方は、
一体、どんな世界を
生きておられるのだろう。
毎回の診察で、
思いをめぐらせました。
いまは、次のように、
推測しています。
この方は、生まれつき、
ヒトの4つの機能の中の、
「信じる」が、
多数派とは、
ひどく違っている。
多数派は、
「ヒトは自分にとって必要だ」と
思っている。
でも、この方は、
そうは、思っていない。
だから、
最初の重要なヒトである、
母に対しても、
コミュニケーションを取ろうとはしない。
その必要性を、感じていない。
だから、以後、
ヒトとコミュニケーションを取るための、
「考える」(言葉)や
「動く」(あいさつや身振り)が、
一切、発達することがない。
では、この方は、
何を信じているのか?
おそらく、
ヒトが存在しようが、しまいが、
おかまいなしに、
この世界を満たしている、
ヒトを超えた、
宇宙のメカニズム、
それを信じていように、思える。
だから、
打ち出されては、
重力にまかせて、
飛散し落下する噴水を、
何よりも美しいと感じる。
ヒトのこざかしい意図による、
家具、調度などの人工物を
醜く、目障りと感じ、
破壊する。
何もない保護室は、
まだ、許せる。
そして、自分の体の動き。
手、足を動かす、そこに、
宇宙のメカニズムを感じる。
楽しくて、しょうがない。
いつまででも、
同じ動きを、続けられる。
天使のような瞳は、おそらく、
ヒトが見ることはできない、
むき出しの宇宙のメカニズムを
見ることのできる瞳だから。
・・・
これが、
自閉症のエッセンス、
と考えています。
多数派の住む世界からは、
相当に、
かけ離れています。
多数派からは、
あわれみをもって、
ヒトを信じる能力の欠如、
と判定される。
しかし、彼らにとっては、
信じているものが、
多数派とは、違うだけ。
もちろん、
この推測を伝えても、
ご両親にとって、
何も慰めにはならないでしょう。
日々のケアの大変さを、
先生、なんとかしてくれ・・
でも、
彼らが、人生をかけて、
信じているもの、
彼らの存在が発している
メッセージを
理解しようとすること、
それ、なくしては、
何も始まりませんね。
さて、
自分が発達障害かどうか、
気になる時、
まずは、
Do:
自閉症のエッセンスについて、
想像力を働かせる。
Don’t:
自閉症のエッセンスについて、
欠如している側面のみで
評価する。
・・・
自閉症スペクトラムについて
考えるとき、
このエッセンスを理解しておくことは、
とても、大切です。
なぜなら、
このエッセンスには、
多数派にはない、
少数派ならではの特性が
つまっているからです。
多数派と少数派が、
共存していくために、
必要なヒントが、
つまっているからです。
次回は、このエッセンスが、
自閉症スペクトラムの中で希釈されると、
どのような状況になるか、
見ていきましょう。
いかがでしたでしょうか?
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