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2017/05/05

磁気刺激療法・TMSがうつ病に有効な理由:電気けいれん療法・mECTとの比較から

磁気刺激療法


磁気刺激療法・TMSは、お薬によらない、うつ病の最新の治療法です。
でも、どれぐらい、効くのでしょうか?

寛解率が15〜20%だ、と言われても、ピンときませんね。

この記事では、磁気刺激療法・TMSが「効かないわけがない」という理由を、ご説明しましょう。
そのために、やや遠回りですが、修正型電気けいれん療法・mECTのお話から始めましょう。

修正型電気けいれん療法・mECTとは

50年以上の歴史を持つ、精神科の確立された治療法です。
手術室で、麻酔科医の麻酔管理のもと、
意識のない状態で、こめかみに当てた電極から、5秒程度の短時間、電流を流します。

通常なら、グーッと全身をつっぱり、カクカクと震える、けいれんが起きますが、
筋弛緩剤を点滴より投与しているため、けいれんは、起きません
この処置を、週3回、4週間、入院の環境下で行います。

対象は、統合失調症の幻聴や被害妄想や、
食べられないため点滴を要する程度の、重症のうつ病です。

その効果は、しかし、劇的、といっていいでしょう。
統計上も、50%で何らかの効果を示す、と言われており、
他科の治療法も含め、これほどに効果のある治療法は世に存在しないでしょう。

私は、東京大学医学部附属病院、東京都立松沢病院や豊島病院に在職中、日常的に、この治療に携わってきました。
どのような病状が、どのように改善するのか、つぶさに見てきました。
全く何も食べられなかった、高齢の、うつ病の、昏迷状態の方が、
3回の処置で、パクパク食べられるようになる、そんなケースは、普通にあります。

ただし、この治療法は、負の歴史も持っています。

筋弛緩剤を使用する以前の時代では、電流を流す短時間、もちろん、意識のない状態をつくる麻酔薬は使用しますが、
実際にけいれんが起きていました。
また、あまりに効果的なので乱用される傾向にありました。
そのため、人道的な理由から、この治療に反対の立場を取る精神科医も多くいました。

その反省の上に立ち、筋弛緩剤を使用する「修正型」が誕生し、乱用を防ぐための適応基準がガイドラインとして作成され、
現在は、大学病院を中心に、精神科の重要な治療法として、定着しています。

それでも、この歴史の影響か、精神科医の中には、この治療法を生理的に受け付けない、
または、経験がないためその劇的な効果に対する理解が乏しい、
よって、治療の選択肢として頭に置いていない、そんな方もおられます。

もちろん、この治療法がメディアで喧伝されたこともありません。
つまり、知る人ぞ知る、「隠された最終兵器」なのです。

磁気刺激療法・TMSのメカニズム

さて、この修正型電気けいれん療法・mECTと、磁気刺激療法・TMSとは、
一体、どんな関係にあるのでしょうか?

スバリ、そのメカニズムが、基本的に同じだ、ということです。

修正型電気けいれん療法・mECTは、
こめかみの電極から、直接、脳全体に電流が流れます。

磁気刺激療法・TMSは、
頭部に当てたコイルが発生する磁場が、
脳の特定の部分にのみ、渦電流を発生させます。
いわば、磁気刺激療法・TMSは、
脳の特定の部位にのみ、ピンポイントで行う、修正型電気けいれん療法・mECTだ、と言えます。

だから、効かないわけが、ないのです。

加えて、脳の特定の部位にのみ電流が流れるので、
修正型電気けいれん療法・mECTのように、脳全体にけいれんの状態が生じることはありません。
よって、麻酔管理も不要、入院が不要で、外来処置として可能、ということになります。

夢のような治療法ではありませんか!

だから、10年前、磁気刺激療法・TMSの存在を知ったとき、
いつか、この治療法が主流になるだろうと予想していました。

そして日本では、まだ保険が適応されませんが、
自費診療として、当院で導入いたしました。

残念ながら、治療効果は、今のところ、修正型電気けいれん療法・mECTには及びません。
うつ病の場合、脳の特定の部位とは、左側の、背外側前頭前野、という部位になりますが、
そこをどう特定し、その深さまで、刺激を到達させるか、という技術的な課題があります。
しかし、猛烈な勢いで研究はすすんでいます。
より効果的なプロトコール(刺激の強さ、頻度の段取り)の開発も、盛んに行われています。

少しでも、磁気刺激療法・TMSの治療効果が、
修正型電気けいれん療法・mECTに近づくことを、期待しましょう。

当院の磁気刺激療法・TMSの詳しい情報はこちら↓
うつ病の最新の治し方:磁気刺激療法・TMSとは何か