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2017/02/23

うつ病の最新の治し方:磁気刺激療法・TMSとは何か

磁気刺激療法

うつ病の治療には、二つの柱があります。抗うつ薬と、認知行動療法などのカウンセリングです。
でも抗うつ薬は、6〜7割の方には効かないというデータがあります。その結果、いろいろな薬がどんどん増えてしまいます。
また認知行動療法も、病状が重いと、とても取り組むことができません。取り組めなければ、効果はありません。
薬も、カウンセリングもかみ合わない、長引くうつの方は、どうしたらよいのでしょうか?

うつ病の磁気刺激療法(TMS)は、そのような方のための、三つ目の柱です。

薬でも、カウンセリングでもない、「処置」というかたちの治療です。
2012年、メディアが取り上げて以降、日本でも一般に知られるようになりました。
海外ではすでに保険が適応される確立した治療法ですが、
日本では、大学病院の臨床治験として、またはクリニックの自費診療としてしか、受けることができません。

磁気って? 刺激って? 痛いの? 効くの? 期間は? 費用は? どこで受けられるの? 再発するの?
いろいろな疑問をお持ちのことと思います。

うつ病の磁気刺激療法についての疑問に、順番にお答えしていきましょう。

そもそもTMSって、何の略?

TMSは、transcranial magnetic stimulationの略です。
直訳すると、経頭蓋 磁気 刺激、となります。「経頭蓋(けいとうがい)」とは「頭蓋骨の外から、頭蓋骨を経由して」という意味です。
実は「頭蓋骨の内側から」脳を刺激する他の治療法もあります。それらの治療法と区別する意図があります。
特に、反復して刺激を加える場合、rTMSと呼ばれます。 ”r”は、repetitive(反復)の”r”です。
つまり、正確には、rTMSは、反復経頭蓋磁気刺激(療法)と訳されます。
そして、うつ病の治療の場合、rTMSが用いられます。
一般には、単に「TMS」「磁気刺激」「磁気刺激療法」と呼ばれる場合が多いです。

海外では保険が効くの?

TMSは、海外では保険適応のある精神科医療です。
2008年、米国のFDAが認可しました。(Neuronetics社製)
2011年、EUで認可されました。(MagVenture社製)
2013年、韓国のMFDSが認可しました。(Neuronetics社製)
2015年、米国のFDAが認可しました。(MagVenture社製)
2016年現在、日本では、まだ保険適応ではありません。
しかし、大学病院での臨床治験や、クリニックでの自費診療として国内でも治療を受けることは可能 です。

どんな病気に効くの?

TMSが対象とするのは、薬物治療が効きにくい、うつ病です。

1993年、うつ病の患者に初めてTMSが応用されました。 以後、他の疾患と比べて、多くの研究成果の蓄積があります。
複数の抗うつ薬を試しても効果が乏しい場合、薬物治療抵抗性、と呼びます。 その場合に、TMSがよい適応となります。
これは、最初の治験で、薬物治療抵抗性の患者に有効性が示されたことが背景にあります。

現在では、他の疾患にも応用が広がっています。
強迫性障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、統合失調症、アルツハイマー型認知症、などの精神疾患。
脳梗塞の後遺症、パーキンソン病などの疾患。
慢性疼痛、耳鳴などの症状。

磁気刺激って、どういうこと?

 TMSは、コイルが生む磁気により、大脳皮質の神経細胞を刺激します。

左の頭部に、磁気を発生するコイルを当てます。 左の背外側前頭前野(DLPFC)という大脳皮質の特定の部位を標的にします。 うつ病との関連性が高い部位です。 その部位に、瞬間的(0.1秒)に、渦電流を発生させます。 電磁誘導という物理現象を応用しています。

具体的には、
コイルに電流が流れる
→コイルの周囲に磁場が生まれる
→その磁場が頭皮や頭蓋骨を通過する
→大脳皮質に届いて、そこで、渦電流に変わる。その刺激が、抗うつ作用を生みます。

具体的には、以下の変化が推定されています。
●ドーパミンなどの神経伝達物質の放出増加 脳血流の増加
●神経ネットワークの変化

一回の刺激では、その変化を十分に起こすことができません。 よって、「反復」刺激を行います。
具体的には、
・4秒間に、40回の渦電流を起こす刺激の後、 26秒間の「休憩」をはさみ、
・そのセットを、75回、繰り返します。
・すると、30秒 (4+26秒) × 75回 = 37.5分間に、
・40回×75回=3000回の、パルス状の刺激が加わります。

これが、一回の処置になります。

期間は?

スタンダードな治療では、1日1回、約40分の処置を、週5日間、続けます。
それを、約4~6週間、連続で行い、一回の治療とします。
人によりますが、治療開始から2週間程度で効果が実感される場合が多いです。
しかし効果を定着させるためには、やはり4~6週間の治療が必要です。
1~2回の処置のみで効果を期待することはできません。

処置は、外来通院で可能です。

効くの?

寛解率は15~20%です。 抗うつ薬に反応しないうつ病の患者に対する、ランダム化二重盲検比較試験のデータです。
寛解率とは、うつ病の症状が、軽微に残存する程度にまで、改善した患者の割合です。
次の表は、寛解率を抗うつ薬と比較したデータです。
Aは1剤、Bは2剤、Cは3剤の抗うつ薬で改善が見られなかった患者です。
A B C
抗うつ薬 21.2 16.2 6.9
TMS 25.6 17.9 18.2

この表から、薬剤治療抵抗性の患者ほど、TMSの方が、抗うつ薬より効果が高いことがわかりま す。

副作用はあるの?

磁気刺激療法
処置中に、コイルを当てた部位の痛みが、3割程度で見られます。 コイルの向きや位置を修正することでましになり、治療中断に至ることは少ないです。頭の皮を弾かれたような痛さ(デコピンのような)、と形容される患者様が多いです。重篤な有害作用としてけいれんがあります。 が、頻度は一回の治療期間中、0.1%未満と稀です。
逆に、抗うつ薬で認める有害作用がないことが、大きな長所です。
具体的には、
嘔気、食欲低下、眠気、不眠、口渇、便秘、尿閉、セロトニン症候群、離脱症状などがない。
さらに、修正型電気けいれん療法(mECT)に見られる有害作用もありません。mECTとは、50年以上の臨床実績のあるうつ病の治療法です。 有効性と安全性は確立されていますが、 全身麻酔下での管理を要する入院治療になる点が、デメリットでした。薬によらない、処置による治療という意味では、TMSの「先輩」と言えます。
mECTは、有害作用として、けいれん、せん妄、記名力障害などがありますが、 TMSでは、けいれんは稀で、せん妄、記名力障害は認めません。
詳しくは、こちら↓

どこで受けられるの? 費用は?

公的病院の臨床治験は、実費のみで受けることができますが、人気が高く、予約が埋まって募集を中止している施設が多い状況です。
クリニックでは、以下の施設で可能です。

【関東】※いずれも東京
・新宿ストレスクリニック http://www.shinjuku-mental.com/  名古屋院、梅田院あり
・お茶の水うつ病クリニック
・つのおクリニック http://www.tsunoo.net/magpro/

【中部】
・あおいクリニック http://www.aoi-clinic.jp/aoi_TMS.html (静岡)

【関西】
・瑞枝クリニック http://mizue-clinic.com (京都)

【中国・四国】
・ハンス診療内科クリニック http://hns.or.jp/hns-clinic/tms/index.html (広島)
・Dクリニック http://www.d-clinic-imabari.jp/medical/tms.html (愛媛)

費用は、一回の処置に、2〜3万円を要する施設が多いようです。

再発するの?

TMSによって抑うつ状態が改善した場合でも、その20〜30%で再発する、というデータがあります。
せっかく、時間と費用をかけて立て直した病状が、再発するなんて、考えたくもないですね。でも、ありえます。

なぜでしょうか?

うつ病を引き起こした要因が、そのまま放置されているなら、徐々にまた、うつ病を呼び込んでしまうのです。
どんな要因がありえるでしょうか?

・生活リズムと活動量のコントロール
・食生活のあり方
・対人関係のあり方
・経済状況
・感情のコントロール
・からだの痛みのコントロール
・考え方のクセ
・セルフイメージ
・人生や自分についての信念(コア・ビリーフ)

これらの要因について、TMSの治療期間中に、できるだけテコ入れをしておくと、再発防止に役立つでしょう。

当院では、4~6週間のTMSの治療期間を、単に、処置を繰り返す期間とせず、
毎日の処置の前後での、体調の確認と生活指導と、
毎週土曜日に50分、医師によるカウンセリング
を提供しています。
その中には、行動療法、運動療法、食生活指導、マインドフルネス瞑想法が含まれ、必要な方には精神分析的精神療法も提供いたします。上述の要因へのテコ入れとして有効でしょう。
つまり、TMSの治療期間を、ストレスケア病棟への入院に準じる濃厚な、「うつ完全脱出プログラム」として位置づけています。

詳しくは、こちら↓
磁気刺激療法・TMS

治療を受けようかどうか悩んでいるとき、どうすればいい?

磁気刺激療法(TMS)に関心はあるが、実際に受けるとなると、ハードルが高いのも事実です。

●立地
まず、全国で実施できる施設が限られています。よって、週5日、4週間以上の通院が可能な施設が、近隣にない可能性が高いです。
その場合、治療期間中、ホテルに滞在する必要が生じ、滞在費がかさみます。
●費用
また、前述したように、自費診療になるため、処置費用だけでも、4週間で、50万円程度は必要です。
●混合診療への配慮
さらに、TMSは自費診療となるため、通常の精神科の保険診療との混合診療に注意が必要です。
厳密には、TMSの処置を受けた月は、うつ病で保険診療を受けると、混合診療に該当します。
精神科の薬物治療を併用しているケースがほとんどと思われるので、TMSの担当医と、通常の保険診療の担当医との、
密な連携が理想的です。担当医の了解が得られるか、それも悩みどころとなる可能性があります。
●適応
そもそも、TMSの適応かどうかの判断が必要です。てんかん発作のある方や、自殺企図のリスクのある病状の重い方などは、
適応になりません。

当院では、お問い合わせいただいた後、問診票をお送りし、上述のハードルの程度について、確認させていただきます。
その上で、初回面接の日程調整に入ります。
遠方の方でも、遠隔診療のシステムを利用すれば、来院することなく、ビデオチャットで面接が可能です。
セカンドオピニオンも提供できるので、長引くうつでお困りで、TMSに関心をお持ちの方は、
まずは、お問い合わせください。

詳しくは、こちら↓
遠隔診療

まとめ

●磁気刺激療養(TMS)は、薬も、カウンセリングも効かない、長引くうつ病の方に有効な、精神科の治療法です。
●現在、日本では自費診療になります。
●TMSは、コイルが生む磁気により、大脳皮質の神経細胞を刺激し、抗うつ作用を示します。
●TMSは、1日1回、約40分の処置を、週5日間、計4〜6週間、連続で行います。入院の必要はありません。通院で可能です。
●寛解率は15〜20%です。抗うつ薬を次々と変えていくよりも、有効です。
●副作用は、コイルを当てた部位の痛みです(デコピン)。抗うつ薬で認める有害作用がなことが、大きな長所です。
●費用は、一回の処置に、2〜3万円を要する施設が多いようです。実施できるクリニックは全国で10施設程度あります。
●うつ病が改善しても、20〜30%で再発のリスクがあります。治療期間中、再発要因へのテコ入れが大切です。
●当院が用意した「うつ完全脱出プログラム」では、そのテコ入れが可能です。
詳しくは、こちら↓
磁気刺激療法・TMS

磁気刺激療法


瑞枝クリニック 配布資料 Ver.1.4