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2022/02/13

身体リテラシー入門⑲:架空のケースに学ぶ「守り」のスキル



さて、身体リテラシーのシリーズ、
今回は第19回目です。

前回はこちら↓

前回は
全17回の総復習でしたね。

それを踏まえて今回は、
パニック障害
精神科に通院中の30代、女性、
架空のB子さん
再度、登場してもらいます。

身体リテラシーを身につける
実際の経過を
追ってみましょう。

まずは、B子さんの現状を
再掲しますね。

・・・

最初の頃のB子さんは
キツいパニック発作で、
外出もままならず、
日常生活にも
大きな支障がありました。

通院を一年続けて、
今では、近所への買い物には
出かけることが
できるようになりました。

でも、入浴した場合や、
少し遠出をした街中で、
不意に、まさに
根源的な不安」に襲われ、

動悸や、
のどが詰まる感覚に
しばらく身動きが取れない、
という状態に陥ることが
まだ、残っています。

そんな時の、B子さんの
鉄板の対策は、
ご主人か、お母さん、
ダメなら、お姉さんに
電話をして安心感をもらって
自分を落ち着かせる、
というものです。

(再掲、終わり)

・・・

B子さんは
パニック障害の
第一選択薬である抗うつ薬と、
発作のときに飲む
抗不安薬の頓用を使って
ここまで回復してきました。

でも、いずれは
妊娠を希望していることもあり、
できれば内服せずに
過ごせるようにしたい、と
担当医に申し出たところ、
消極的な返事しか
もらえませんでした。

そこで、B子さんは
現在の医院へ
転医したようです。

新しい担当医は、
今までの治療で十分
成果は上がっているが、

「根源的な不安」や、
その結果の動悸などを、

今以上に
なんとかするためには、

お薬以外の作戦が必要、
と伝え、B子さんも、
そのようなアプローチを
望んでいた、とのことでした。

・・・

まずは
活動記録表を用意して、

日々の不安や動悸などの症状、
それが出てきた時にとった自己対処や
その効果などを、
記入していきました。

次の診察で、
そのデータを踏まえて
担当医が説明を始めました。

その内容はおおよそ
次のようなものでした・・・。

6つのチャンネルについての概要。

・不安や動悸は、
3:身体感覚のチャンネルからの情報で、
内受容感覚の一種だ。

・そのチャンネルが
占有」されているからしんどい。

・「音楽を聴いて気を逸らす」という
自己対処は、2:聴覚のチャンネル
選択的注意をもっていく、優れた方法だ。

・母に電話をする、
可能であればそばにいてもらう、という
鉄板の対策は、5:他者との関係
というチャンネルに
選択的注意をもっていく、強力な方法。

・だが、母がいない時、困る。
今は、この対策に頼ってよいが、
徐々に、別の対策を開発してゆく必要がある。

・頓用を使っても不安や動悸が
思ったほどやわらがない時、
よけいにイライラしているようだ。

・抗不安薬は、時に、魔法のように
症状を消すことができる。
病状がキツい時、自己コントロールを
取り戻すために一時的に使用することは
問題ない。
が、その感覚を追い求めると、
抗不安薬が手放せなくなる。

・根源的な不安や、動悸が
「全くない自分」を目指すのではなく、
それがあっても今ほど動揺しない自分」を
目指すことをお勧めする。

・・・

B子さんは、初めて、
今までの療養の全体について
整理できた気がしました。

自分が何と格闘して、
結果的に自分なりにやっていたことが
どのように効いていたのか、
イメージを持つことができました。

と同時に、確かに
「(症状が)全くない自分」に
知らず知らずのうちに強く
こだわっていたこと、

そのために逆に、
不安になることもあったな、と
気が付きました。

そして、今後は、

・無自覚にやってきた対処法を
自分の対処スキルなのだと
自覚して行う

・頓用は、症状を消すためではなく、
3:身体感覚のチャンネル、以外の情報に
選択的注意を移すことを
やりやすくするために使う

という点に留意して、
しばらく療養を進めていきました。

そして、初めて
自分が主体となって
症状と向き合っている感覚を
持つことができました。

・・・

しかし、どうしても、
根源的な不安に襲われた時、
音楽を聴くだけでは、

からだもこころも巻き込む、
あのゾワゾワした感覚を
どうすることもできない、
そんな場面が出てきます。

この不安って、何なんだ?

担当医は、
お伝えするタイミングが来たな、
という表情で、

実は、人間って、
その不安にほんとうは、
みんな、さらされているのです。

でも、それってあまりにしんどいので
それを見なくてすむようなシステム、
つまり文化、ですね、
それを集団で共有しています。

でも、感覚がするどい方が、
ほんとうのことを感じて、
体験してしまうのです。

ほんとうのことだから、
なかったことには、
できないのです。

でも、それと
付き合っていくことは
できます。

B子さんの場合、おそらく、
生まれつき、

3:身体感覚のチャンネル
その感度が高いから、
ほんとうのことを感じてしまう、
でも、

訓練されていないから、
そこからあふれてくる
根源的な不安に、
振り回されてしまう。

そういうことが、
起きているのです。

だから、
3:身体感覚のチャンネル
特に、内受容感覚

その情報を受け入れる、
ある種の「器(うつわ」」、
つまり、キャパ、ですね、
それを育てることが
ポイントになってきます。

・・・

B子さんは、
なんだかショックを受けました。

今までも担当医から
説明は受けていたけれど、

どこか自分の中に、
根源的な不安をなかったことにしたい、
そんな自分がいた、
それをもう、あきらめるしかない、
そんなショックのようでした。

と同時に、実は、
B子さん自身が、どこかで
わかってもいました、
このしつこい、根源的な不安って、
なかったことには、
できないものなのだろう、と。

そして、この診察以降、
その不安と共生していくために、
内受容感覚をどうやって
育てて行くのか、が
診療のテーマとなっていきました。

・・・

B子さんは、いままで
自分なりに呼吸法について
取り組んだ経験がありましたが、
ピンときませんでした。

担当医の指導のもと、
6つのチャンネルの観点から
呼吸法を見直してやってみると、
少し手応えがありました。

でも、いまいち、
吐ききる、という感覚が
よくわからない。

鼻の粘膜に
選択的注意をもっていって、
そこを流れ出る
湿った呼気を感じようとしても
よくわからない。

そこで担当医は
ボディワークが得意な
女性の臨床心理士を紹介しました。

B子さんは、
椅子に座った状態で
担当医に習った呼吸法を
セラピストと一緒に
やってみる。

それを見ていたセラピストは
一つのワークを提案しました。

フロアに仰向けになって、
息を吐いていく。

その時、鼻の粘膜に
選択的注意をもっていくのではなく、

自分のからだ、
フロアに接している、自分の
膝の裏、
おしりのお肉、
背中のお肉、
肩のお肉、それらが、

重力の重みで、
まるで、アイスクリームがとけるように、
とろとろと、
フロアにベターッ
密着する感じ・・・、
その感覚に注目する。

B子さんは、
息を吐きながら、
その感覚に、
静かに、注目してみました。

セラピストは、
B子さんのからだと
フロアの間に、
手のひらを差し入れ、

手のひらで感じる
B子さんの筋肉の圧が
増してくると、

そうそう、その感じ・・・
静かに脱力を促しました。

時に、背骨や
鎖骨が、ポキッと
鳴ったりしました。

床に仰向けになっていた姿勢に
まだまだ緊張が残っていたため、
それがゆるむと、
骨にかかる力に変化が生じて、
ポキッと鳴るのでしょう。

息を吸うときは、
からだが緊張して
筋肉も膨らむので、
フロアとの密着は、減ります。

吐くと、
ベターっと密着します。

鼻の粘膜ではなく、
からだのフロアへの密着感、
それに注目することで
B子さんは、
吐ききる感覚を
追いやすくなりました。

そうか、
まだまだ、吐けるんだな、
と。

セッションの最後は、
椅子に座った姿勢にもどって
もう一度、呼吸法をやってみる。

すると、吐くとき、
からだがゆるむ、
今までにない新しい感覚が
わかるので、
それを追っていくと、
今までより、楽に、長く、
吐けることが、わかりました。

・・・

さて、今回は、
ここまでです。

このシリーズでお伝えしてきた
「守り」と「攻め」では、
守りの部分に相当します。

次回は、
B子さんのその後の
リハビリの展開を
お伝えしましょう。

「攻め」に転じる前に、
「安心感」をさらに
パワーアップさせるには
どうしたらよいか。

そして、B子さんにとっての
「攻め」とは、何か。

そして次回、いよいよ
最終回です。

・・・

根源的な不安に
さいなまれている時、

それと共生するための
身体リテラシーのスキルに
取り組むにあたって、

Do: 
「守り」から
丁寧にすすめる。

Don’t: 
メルマガに書いてある方法で
うまくいかない、と
落ち込む。

※B子さんは、
鼻の粘膜に注目する方法では
今一つでしたが、
仰向けでのワークで
手応えがありました。
でも、そのワークでも
よくわからない、という方も
おられるでしょう。
どんなアプローチが
自分に合うか、
ほんとうに、人それぞれです。
うまくいかない場合は
診察などでご相談ください。

いかがでしたでしょうか?
同じ悩みをお持ちの方は、 
ぜひ一度、お問い合わせください。