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2017/02/10

うつ病の治し方で最初に知るべき3項目

うつ病と診断された後、うつ病の療養生活が始まります。十分な休息をとり、生活リズムを維持し、必要に応じて抗うつ薬の内服や認知行動療法を行います。スタンダードな治療の大枠に、大差はありません。それなのに、順調に回復する方と、いつまでも回復できない方が、必ず生じます。この差は、どこから来るのでしょうか?

順調に回復しない方は、うつ病という、自分のこころとからだに起きた異常事態に対して、全くイメージが持てていない場合が多いです。あるいは、「こころのカゼ」「脳の疲労」「セロトニンの不足」などの言葉は浮かんでも、それを自分の療養生活に活かすことができない。その結果、困惑と焦りと不安の中でもがいてしまいます。順調に回復する方は、直感的に、コツを理解されているようです。「まだ無理はしないでおこう」「そろそろ大丈夫だろう」という手加減が上手です。

順調に回復する方が、直感的に体得している、このコツを、知りたくありませんか?そのコツを、言語化する一つの方法が、うつ病を、「チェーンが外れた自転車」の状態である、とイメージすることです。

では、これから、順番に説明していきましょう。

1 うつ病は「チェーンが外れた自転車」の状態である

自転車のチェーンが外れる

健康なヒトが、スイスイ自転車を運転している状態だとすると、うつ病の方は、「チェーンが外れた」状態に例えることができます。やらなきゃと思うのにやる気が出ない。カラダはどこも悪くないのに、カラダが動かない。ペダルを踏む意志もあり、実際、ペダルも踏んでいるのに、そしてパンクもしていないのに、自転車が動かない・・・、まさに、そのような状態です。

自転車なら、チェーンが外れていることは、見れば一目瞭然です。でもヒトのうつ病の場合、それが、とてもわかりにくい。だから、ペダルを踏む人間が怠けている、あるいは、どこかカラダの病気ではないかと、本人も、周囲も、思ってしまいがちです。

ところが、ヒトにとって、その「チェーン」がどこにあるのか、かなり解明されてきています。脳という臓器の、左側背外側前頭前野という部位が、その候補です。その機能低下が、うつ病と密接に関連していることがわかってきました。でも残念ながら、現代医学では、自転車屋さんでサクッとチェーンをかけ直すようには、その部位の機能低下を回復させることは、いまのところ、できません。

しかし、脳の中に、「自転車のチェーンがあり、そこが外れている」とイメージすることは、うつ病からの回復を目指す、ご本人にも、ご家族にも、とても有益です。なぜなら、ご本人も、ご家族も、何にとりくめばよいのか、共通のイメージを持つことができるからです。

Do:

・うつ病は、「チェーンが外れた自転車」の状態だと知る。

・原因は、運転者(本人のやる気や性格)にも、車輪(カラダ)にもないと理解する。

・本人も、家族も、ともに、「チェーンをかけ直すにはどうすればいいか」を考える。

Don’t:

・うつ病の原因を、運転者がペダルを踏む気がないからだと決めつける。

・本人も、家族も、「早くこがないと!」「早くこげ!」と叱咤激励する。

 

2 療養の第一段階は「チェーンをかけ直す」こ

チェーンをかけ直す

では、「チェーンをかけ直す」には、どうすればよいでしょうか?

そもそも、「誰」が、チェーンをかけ直してくれるのでしょうか?これも、現代医学では十分に解明されてはいませんが、一言でまとめると、「自己治癒力」と言うほかありません。

誰でも、ちょっとしたケガをされたことがあると思います。この、ケガが治るプロセスを思い出して下さい。パックリ口を開けていた傷口が、手当を上手にすると、数日後、いつの間にか、閉じている。不思議ですね。これこそが「自己治癒力」のなせる技。

うつ病も同じです。ただし、「脳の中の外れたチェーンが、自己治癒力で、徐々に、もとの歯車にもどっていく」というアニメをイメージするには、想像力をたくましくする必要がありますね。

でも、うつ病から回復される方の様子を目の当たりにすると、脳の中で、それが起きていると納得させられます。

ここでポイントになるのは、ご本人や、ご家族は、何を努力すればよいのか、ということです。

これもヒントは、ケガが治るプロセスにあります。ケガの手当の基本は、傷口から細菌や異物を取り除くために洗浄し、傷口をピッタリ合わせて、動かさないようにして、待つ。そして組織が再生するために必要な栄養を十分にとる、ということに尽きます。つまり、自己治癒力を妨げるものを取り除き、自己治癒力を促進するものを用意する、ということです。これは、うつ病の療養においても、全く、同じです。

では具体的には、何をすればよいのでしょうか?

一覧表にまとめてみましょう。

うつ病の療養生活で、自己治癒力を促進するもの、阻害するもの 一覧表

促進 阻害
睡眠 深い質のよい睡眠 不眠、浅眠、悪夢
食事 規則正しい食生活 不規則な食生活、過食、拒食
アルコール 原則、断酒 飲酒(睡眠の質を悪化させる)
運動 適切なタイミングと運動量 不適切なタイミングと運動量
向精神薬 適切なタイミングと種類・量 不適切なタイミングと種類・量
経済状況 療養に専念することが保証される 療養に専念することが保証されない
対人関係 良好 不調
考え方 楽観的 悲観的
感情 適切に表現する ため込む
疼痛 カラダの痛みが和らぐ カラダの痛みが続く
安心感 療養生活全体に安心感がある 療養生活全体が不安だらけ

・つまり、

Do:

・「チェーンをかけ直そう」としている本人の自己治癒力を、本人も家族も、全力でサポートする。

・自己治癒力を促進するものを用意し、阻害するものを排除する。

Don’t:

・「チェーンが外れている」まま、ペダルを踏み続ける。

・「チェーンが外れている」まま、放置する。

 

3 療養の第二段階は「チェーンが外れないように気をつけながら、ペダルを踏み始める」こと

では、「外れたチェーンをかけ直す」ことができたら、次は、何をすればよいでしょうか?ここで、「早くもとのようにスイスイこぎたい」と、いきなり自転車にまたがり、こぎだす方が、とても多いです。

ポイントは、3つあります。

一つは、「無理にペダルを踏むと、またチェーンが外れる」ということ。実際の自転車でも、急な発進、無理な坂道で、チェーンが外れることは、ご承知の通り。こうなると、せっかく自己治癒力で回復させた脳の機能を、振り出しにもどすことになります。この無駄を回避することが、順調な回復に、極めて重要です。

二つ目は、「ペダルを踏み始めないと、チェーンがかかっているか、わからない」という実情があります。これは、現代医学の現時点での限界です。だから、常に、どの程度チェーンが回復しているか、実際にペダルを踏んで確かめながら、療養をすすめる、というスタンスが不可欠になります。この場合、実際にペダルを踏むとは、「毎日の生活の中でとるすべての行動」を意味します。

うつ病の症状が重いとき、洗顔すらおっくうでできない、とう状態が十分ありえます。この時、無理に入浴や散歩をすすめると、症状が悪化する場合があります。チェーンがまた外れてしまった、とういことですね。正に、入浴や散歩は、この時点では、無理なペダルの踏み方だった、ということになります。

つまり、毎日の生活自体がリハビリだ、ということ。毎日の生活でとるすべての行動を、チェーンの回復の程度に合わせて、デザインしていく、その丁寧さが求められます。

具体的には、例として、次のような順番で、ペダルを踏み込んでいくとよいでしょう。

<自宅内>
更衣、食事を座位でとる、洗顔、入浴、座位の時間が長くなる、TV鑑賞、読書、
洗濯機を回す、洗濯物を干す、皿洗い・・・

<自宅外>
ごく短時間の散歩、買い物、人混みで時間を過ごす、復職デイケア参加(午後)、
復職デイケア参加(午前〜午後)、通勤訓練、リハビリ勤務、
復職(残業なし)、就労継続(残業あり)・・・

そして、「チェーンが外れそう」という感覚に熟達することが大切です。これが、うつ病になり、大きな代償を払った結果、手に入れることのできる、スキルです。これがわかれば、「これはちょっと踏み込みすぎたな」と、翌日からの生活を修正し、うつ病の療養を順調にすすめることができるようになります。

三つ目は、「ペダルを踏むと、よりしっかりチェーンがかかる場合がある」という点です。例えば、日中の活動が活発になると、昼夜のメリハリが出てきて、夜の睡眠の質が改善する、その結果、さらに脳の機能が回復する(チェーンがしっかりかかる)という好循環があります。療養に過剰に慎重になり、自宅に引きこもりがちになると、回復のきっかけを逃す結果になる場合があることも、知っておく必要があります。

さて、この項目のまとめです。

Do:

・自転車にスイスイ乗れる日を目指して、毎日の生活がリハビリだと自覚する。

・「チェーンが外れそう」とう感覚に熟達し、毎日の生活の軌道修正を丁寧にする。

Don’t:

・いきなりペダルを踏み込み、チェーンが外れてしまう。

・チェーンが外れることを恐れて、ペダルを踏み込まない。

 

詳しくは、こちら↓
うつ病とは?:うつ脱出のための基礎知識①
あなたのうつ病のタイプは?:うつ脱出のための基礎知識②
うつ病のタイプと治療法のマッチング:うつ脱出のための基礎知識③
磁気刺激療法・TMSを中核とした「うつ完全脱出プログラム」とは

自転車のペダルを踏む

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